雪の聖母会

沿革

設立に関して

 1915年4月に久留米市荘島町に井手内科医院開院。井手内科医院の院長井手用蔵は、大刀洗の出身であった。大刀洗は戦国時代から禁教を耐え信仰を守ったキリシタンの村で、用蔵は村人達の資金援助により医学を修め、久留米市に開業を果たした。1945年8月の久留米大空襲により、井手内科医院は閉鎖されるものの、大刀洗や久留米のカトリック信者達の援助を受け、1948年2月に久留米市日吉町に井手医院として、診療を再開した。
 またその頃、カトリック久留米教会棚町神父らと結核療養所の計画が進行。県衛生部の指導、県土木事務所や市復興部の尽力もあり、病院建築構想へ発展し、井手用蔵の長男井手一郎を中心として、1952年3月医療法人雪の聖母会設立。その後、1953年9月聖マリア病院が開院した。
 聖マリア病院は「カトリックの愛の精神に基づく医療」を行なう事を定款に定め、内科・小児科・放射線科を標榜し結核病棟79床、第一病棟は幼きイエズス修道会の修道院、第2病棟は城島小学校の旧校舎、給食等の施設は善導寺小学校の旧校舎を譲り受けスタートした。当時、「亡国病」と呼ばれた結核の治療を中心として行い、1953年結核指定医療機関に指定、1958年には結核患者の外科的治療及び歯科治療のため一般病床24床を新設。これらは後の救急、新生児医療へとつながる。また、1960年には結核患者の長期療養に起因する精神科疾患の治療のため、精神病床102床を新設し、1961年には精神衛生法指定病院の指定を受ける。

新生児医療

 新生児に対する医療は、1958年、地元保健所の要請を受けて開始された。未熟児養育医療機関の指定は、1958年に福岡県、1964年に佐賀県、1967年に熊本県より受ける。1963年には未熟児センター21床増設、1965年、未熟児センター退院児の総合健診「ミカエル会」の第1回が開催され、結核治療からの質的変換を迫られた外科の協力により小児外科が誕生した。1978年、新生児120床、小児及び小児外科71床の合計191床の未熟児センター、小児外科、小児科、新生児科を統合した聖マリア新生児・小児救急医療センターが竣工した。1992年、ユニセフ赤ちゃんに優しい病院認定を受け、1998年には、福岡県総合周産期母子医療センターの認定を受ける。

救命救急医療

 救命救急の体制に関しては、1963年に聖マリア病院救急部が編成され、結核患者の減少に伴い、結核医療を主目的に設立された外科の質的変換を迫られた際に、当時、社会問題化しつつあった交通外傷への対応を視野に、1964年4月より24時間の救急医療を開始した。同年12月福岡県救急告示病院の指定を受ける。1968年救急医療センターを付設したICU20床、未熟児センター60床合計145床の本館病棟を落成した。また、脳神経外科・心臓血管外科・形成外科・産科などの救急体制を整備するため、1980年に特殊手術室3室及びICU・CCUを含めた病床数128床の救急医療センター新館を増設した。

透析医療

 救命救急センターのニーズに対応する形で、急性、慢性腎不全、薬物中毒に対する腹膜透析を1971年より開始。1972年にはICU内に人工腎臓室を設置、血液透析を開始。同年6月からは透析患者の完全社会復帰を目的に夜間透析を開始。
 1972年12月には透析患者の急増に対して本館3階に人工腎臓センターを落成、更生医療の指定医療機関の認定を受ける。
 また1976年には、本邦初の治験例となる、透析患者の人工心肺使用による直視下開心術を久留米大学第2外科と共同で行った。1977年一般病棟54床を含めた腎センターを増築。その後、透析は新設された聖母病棟に移行し、また2014年には新設された新しい病院である聖マリアヘルスケアセンターと聖母病棟にて行われている。

総合病院への移行、PFFH

 上記の救命救急医療、透析医療で述べた1968年に竣工した本館では中央手術室、ICU、未熟児センターを完備し、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科を追加、研究室、講義室、図書室、病理解剖室を新設した。なお、1967年6月総合病院の承認を受けている。その後、1983年には地域救急医療システムの進行に伴い、脳血管障害・新生児脳疾患・脳外傷に対して初期救急医療よりリハビリテーションまでの一貫した治療を行う、病床数232床の脳神経広域救急医療センターを開設し、1985年には包括的・継続的な健康サービスを提供する聖マリア国際保健センターを開設した。
 1987年には、医療制度の変化に対応するため、第1期工事としてリハビリ医療センターを竣工、更に宿泊施設を有した国際研修センター・マリアンハウスⅠを建設し、同年特定医療法人として承認された。1990年に厚生省より臨床研修病院として指定され、聖マリアRIセンターを開設。
 1996年より、患者さんとそのご家族に焦点をあてた医療を目指し、PFFH(Patient and Family Focused Hospital)計画の第1期工事を開始、立体駐車場及びコンピューター室を新設。1977年8月には救急医療センターを解体、PFFH計画の第2期工事において、1999年新救急医療センターが竣工。

国際協力分野での取り組み

 国際協力体制は、1982年エジプト国カイロ小児病院からの研修生受け入れにより始まった。1984年同病院へ看護師派遣、国際協力が本格的に開始される。1987年国際協力事業団総裁表彰を受け、1988年韓国カトリック病院協会(現韓国カトリック医療協会)と技術協力締結。1994年にはWHOコラボレイティングセンター指定、1995年国際協力事業団のコンサルタント登録、2004年にはNPO法人ISAPHを開設する。
 また研修生の受入の為に、1987年に建設した国際研修センター・マリアンハウスⅠに続き、さらに海外からの研修員の増加に対応すべく1991年、研修施設マリアンハウスⅡを増築した。

介護・療養分野での取り組み

 1993年には在宅医療の支援を目的とした聖マリア老人訪問看護ステーションを開設し、同年7月には久留米市の委託を受け久留米市聖マリア在宅介護支援センターを、1995年4月には老人保健施設「聖母の家」を開設した。更に、急性期医療と慢性期医療の機能分化を図り、療養型病床群や緩和ケア病棟が入る「聖母病棟」が1997年落成した。2000年には在宅介護支援をより強化するため聖マリアケアプランサービス及び聖マリアホームヘルプサービスを開設し、2013年4月には、聖マリア病院鳥栖訪問看護ステーションを開設し、近隣へと介護分野での拡大を果たす。これによって急性期?亜急性期?長期慢性期?在宅医療という「医療の継続性」、及び保健・医療・福祉による「医療の包括性」の確立を目指すことになる。
 また、慢性疾患により長期入院を余儀なくされている児童に付添われるご家族の負担を軽減すべく、2000年4月に慢性疾患児家族宿泊施設マリアンハウスⅢを建築した。2003年4月1日からは、久留米市の委託により、子育てと就労の両立を支援するとともに、乳幼児の健全な育成および資質の向上に寄与することを目的とする病児保育を開始した。

社会医療法人への認定

 2009年4月1日、福岡県から社会医療法人の認定を受け、それに合わせ法人名を「社会医療法人雪の聖母会」とした。この「社会医療法人」とは、これまで「公益性の高い医療」を行うことで地域医療に貢献をしてきた公立病院の機能を代替するものとして位置づけられる法人類型である。また、救急医療、周産期医療など、特に地域で必要な医療の提供を担う病院を社会医療法人として新たに認定することにより、自治体の病院に代わって、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保できると考えられている。当法人は、①救急医療、②災害医療、③小児救急医療、④周産期医療、⑤へき地医療という5つの社会医療法人の認定項目のうち、⑤へき地医療以外の4項目で認定を受けている。

地域医療支援棟(タワー棟)の落成

 我が国は、少子高齢社会が進展することから社会保障制度の抜本的改革が叫ばれており、質の高い診療の提供に加え、医療の効率化、標準化、透明化が必要な時代となっている。そのような状況において、地域医療機関との医療連携がさらに重要となり、地域完結型医療を実現させるシンボルとして、2012年にヘリポートを備えた地上19階、地下2階の「聖マリア国際医療センター地域医療支援棟(通称:タワー棟)」を落成させた。365日24時間断らない医療を推進すべく救命救急センターの拡張がなされており、市民のニーズに応える形で高度医療を提供している。さらに、救急・手術、集中治療部門、急性期病棟が密接に連携してチーム医療を実践することができるよう設計されている。

聖マリアヘルスケアセンターの開設

 2014年10月には、地上8階建てで、社会医療法人雪の聖母会の新しい病院である聖マリアヘルスケアセンターを開設した。設立の目的は、「地域包括ケアの実践」である。この「地域包括ケア」とは、介護が必要な高齢者や障害者が住み慣れた地域で暮らし続けることができるように、医療・介護・予防・生活支援・住まいという5つのサービスを一体的に提供する体制のことである。したがって、ヘルスケアセンターは、患者さんの機能回復と社会復帰を目指す回復期リハビリテーション病棟・療養病棟、病気の予防と健康増進に寄与する人間ドック・内視鏡センター、通院により人工透析を行うことができる透析センターという3つの部門から構成されている。これらはいずれも聖マリア病院が有していた部門である。さらに、元の生活に戻ることだけを支援するのではなく、入院中・退院後の患者さんやそのご家族のQOL(生活の質)の向上も目標に取り組んでおり、より良い療養環境を形成していくための提案を行っている。