循環器内科
心房細動による脳梗塞に対する新しい治療法
WATCHMAN™(経皮的左心耳閉鎖術)
心臓の上の部屋「心房」が電気的な異常により細かく震えることを心房細動と言います。
心房細動になると、心房内の血流がよどんで、血栓ができやすくなります。その血栓が血流にのって移動し脳の血管を塞ぎ脳梗塞になることがあります。心房細動の患者さんは脳卒中を起こすリスクが通常の5倍とも言われています。また、心房細動による脳梗塞(心原性脳梗塞)は、「ノックアウト型脳梗塞」とも呼ばれ、死亡したり後遺症を引き起こしたりするリスクも高くなっています。心房細動による脳梗塞の発症予防として、抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)の内服もありますが、患者さんの中には出血のリスクなどで長期間の抗凝固薬の服用が難しい方もおられます。
そこで登場したのが「WATCHMAN™(ウォッチマン)」という経皮的左心耳閉鎖デバイスです。心房細動による血栓の約9割は左心耳にできると言われています。WATCHMAN™を左心耳に留置し閉鎖することで、脳卒中を予防します。WATCHMAN™留置後、約1カ月半で抗凝固薬の服用を中止できる可能性があります。
心房細動による脳梗塞の仕組み
WATCHMAN™留置のイメージ
適応患者さん
●脳梗塞リスクが高く抗凝固薬が必要
●出血リスクが高い、出血を起こしたことがある
●転倒による外傷の既往
治療方法
手技は全身麻酔下で行われ、約1~2時間要します。
足の付け根の静脈にカテーテルを挿入。右心房から左心房にカテーテルを進めていき、左心耳にWATCHMANデバイスを留置します。
低侵襲なカテーテル治療なので、一般的に手技の翌日から歩行が可能。入院期間は4~5日程度です。
診療内容・診療目標
当院は多くの救急車搬入を受け入れる病院ですので、循環器内科も救急患者対応が大きな診療の柱で、入院患者の約半分が救急患者です。2021年度は専攻医を含む10人の循環器内科スタッフで昼夜を問わず、緊急処置が必要な循環器疾患の患者さんを受け入れています。
外来では地域医療支援病院として、かかりつけ医から紹介いただいた患者さんを診療することが大きな柱です。紹介いただいた患者さんは優先的に診療し、スムーズな医療連携を図るようにしています。循環器疾患も多岐にわたり、専門化してきましたので、不整脈外来、血管外来、肺高血圧外来、成人先天性心疾患外来、睡眠時無呼吸外来などを開設しています。
19年9月より発作性心房細動に対してクライオバルーンアブレーションを導入しました。肺静脈1本を1回の冷却(約3分)で隔離できる画期的なデバイスで、短時間、低侵襲かつ安全性の高い治療です。週3日程度のアブレーション治療を行っていますので、抗凝固療法が十分な場合には不整脈外来受診から最短で1~2週間で治療できます。また従来のペースメーカーや植え込み型除細動器、両心室ペースメーカーに加え、小型のリードレスペースメーカー、静脈リードを使用しない完全皮下植え込み型除細動器などの治療も積極的に行っています。
21年度は補助循環用ポンプカテーテルのインペラを導入しました。従来のECMO(PCPS)、IABPをもってしても救命困難であった超重症の心不全症例や心原性ショック患者さんの救命率の向上に寄与することが期待されます。また、22年度は心房細動患者さんの脳梗塞予防デバイスである経皮的左心耳閉鎖栓WATCHMAN、大動脈弁狭窄症に対するカテーテル的弁植込術(TAVI)、心房細動に対するレーザーバルーンアブレーションの導入に向け鋭意準備を進めています。
われわれの大きな役割は、多くの患者さんに良質の医療を速やかに届けることです。そのため、まれな病態、疾患に対しては、久留米大学や九州大学と提携して診療に当たっています。「患者さんとご家族、そして紹介いただいた先生方のための医療」を心掛けながら、日々の診療に当たっています。
取り扱う主な疾患
地域の医療機関と連携し循環器疾患に広く対応しています。主な診療内容について紹介します。
1. 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
急性冠症候群(急性心筋梗塞、不安定狭心症)では、早期の血流再開が大切ですので、循環器内科医が院内に常駐し、いつでもカテーテル検査を行える体制を取っています。慢性冠疾患に対しては、検査を適宜実施し、適切な治療方針を判断します。
2. 不整脈
脈が速い不整脈に対してはカテーテルアブレーションを行っています。心房細動は、症状がある、心不全や脳梗塞を起こしたことがある、若年の場合などはカテーテル治療を検討します。また脈が遅い不整脈で症状がある場合はペースメーカー治療を行います。
3. 心不全
救急患者には迅速な対応、早期の症状軽減を図っています。原因に応じた治療が大切ですので、画像検査、カテーテル検査などで鑑別し、薬剤療法、カテーテル治療、外科治療、再同期療法(CRT)などの治療を行っています。また、患者教育が最も大事な治療です。コロナ禍で十分ではありませんが、これについても引き続き行っていこうと思います。
4. 心臓弁膜症
九州大学病院でTAVI術者として60例以上の経験を有する林谷医師が着任し、当科の弁膜症診療がより一層充実しました。リスクの高い症例、治療困難な患者さんはもちろん、すべての開心術症例につき心臓血管外科とのハートチームで綿密な術前カンファレンスを行った上で、治療方針を決定しています。手術適応の例のみならず、悩ましい症例、弁膜症初期でも構いませんので当科までご相談ください。
5. 末梢動脈疾患
間欠性跛行による歩行距離の低下、下肢重症虚血による潰瘍形成に対して、血管外来で内科と外科で協力して診療します。当院では定期的にフットケアカンファレンスを行い、形成外科、整形外科、糖尿病内科、腎臓内科などと綿密に協力して下肢の創傷に対して局所的、全身的なアプローチを行いながら治療に当たっています。特に形成外科や整形外科が院内にあるためタイミングを逃すことなく治療に当たれるのが強みです。
6. 成人先天性心疾患
小児領域や心臓血管外科の先生方の努力で先天性心疾患の患者さんの多くが成人を迎えることができるようになりました。しかし、ここにきて今までになかったさまざまな問題(妊娠、出産、就職、再手術の必要性、悪性腫瘍の発生)が起こってきています。このため、これらの患者さんを専門でみる部門が必要と考えられてきました。筑後地区ではいち早く専門外来を立ち上げ、これらのニーズに対応できるようにしています。
症例実績
2021年度の経皮的冠動脈形成術件数(PCI数)は289件、不整脈に対するカテーテルアブレーション件数は139件でした。
先の見えぬコロナ禍が続く現状で苦難が続きますが、待つことのできない緊急症例のみならず待機症例においても最大限の予防と対策を行った上で適切な治療を提供させていただいた結果、PCI数やアブレーション数は20年度と比較し同等または微増しました。
学会発表・論文など(2021年度)
外来体制
診察ブロック S |
月曜 | 火曜 | 水曜 | 木曜 | 金曜 | 土曜 |
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午前 |
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午後 | - |
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- | - |
診察ブロック S |
午前 | 午後 |
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月曜 |
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火曜 |
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水曜 |
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木曜 |
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金曜 |
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土曜 |
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*診療受付時間は8時30分~11時30分まで。診察開始は9時からです。
*完全紹介電話予約制で、新患は事前の予約が必要です。
*北田医師の外来は、手術などの都合によりますので、事前にご相談ください。
*夜間救急は地域医療支援棟1階で受け付けます。
所属医師
聖マリア教育・研修センター長
循環器センター長/救命救急センター副センター長
田代 英樹たしろ ひでき
- 出身大学
- 宮崎医科大学
- 卒業年
- 1987年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 学位(取得大学)
- 医学博士(九州大学)
- 専門医等の資格
-
- ・日本内科学会総合内科専門医
- ・日本内科学会認定内科医
- ・日本循環器学会循環器専門医
- ・日本心血管インターベンション治療学会心血管インターベンション専門医
- ・日本心血管インターベンション治療学会認定医
- ・日本心エコー図学会認定心エコー図専門医
- ・日本高血圧学会指導医
- ・日本病院会病院総合医
- ・JMECCインストラクター
- ・ICLSコースインストラクター
- ・ICLSコースディレクター
- ・医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
- 学会役員等
-
- ・日本超音波医学会九州地方会運営委員
- ・日本循環器学会九州地方会評議員
- 専門・研究分野
-
- ・循環器一般
- ・心エコー
- ・心血管インターベンション
- ・睡眠時無呼吸
循環器内科診療部長
林谷 俊児はやしだに しゅんじ
- 出身大学
- 九州大学
- 卒業年
- 1997年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 学位(取得大学)
- 医学博士(九州大学)
- 専門医等の資格
-
- ・日本内科学会認定内科医
- ・日本循環器学会循環器専門医
- ・日本心血管インターベンション治療学会専門医
- ・経カテーテル的大動脈弁置換術実施医(CoreValveシリーズ)
- ・経カテーテル的大動脈弁置換術実施医(Sapienシリーズ)
- ・浅大腿動脈ステントグラフト実施医
- ・医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
- ・身体障害者福祉法指定医師
- ・難病指定医
- 専門・研究分野
-
- ・末梢動脈インターベンション
- ・静脈インターベンション
- ・冠動脈インターベンション
- ・経カテーテル的大動脈弁置換術
- ・構造的心疾患インターベンション
循環器内科医長
廖 千惠りょう ちえ
- 出身大学
- 台湾大学
- 卒業年
- 2003年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 学位(取得大学)
- 医学博士(東京大学)
- 専門医等の資格
-
- ・日本内科学会認定内科医
- ・日本内科学会総合内科専門医
- ・日本循環器学会循環器専門医
- ・日本心臓リハビリテーション学会心臓リハビリテーション指導士
- ・日本心不全学会 全緩和ケアトレーニングコース(HEPT)受講
- ・身体障害者指定医(心臓機能障害)
- ・医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
- ・緩和ケア研修会修了
循環器内科医長
長岡 和宏ながおか かずひろ
- 出身大学
- 鳥取大学
- 卒業年
- 2005年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 学位(取得大学)
- 医学博士(九州大学)
- 専門医等の資格
-
- ・日本内科学会総合内科専門医
- ・日本内科学会認定内科医
- ・日本循環器学会循環器専門医
- ・日本心血管インターベンション治療学会認定医
- ・日本不整脈心電学会不整脈専門医
- ・植込み型除細動器(ICD)/ペーシングによる心不全治療(CRT)研修修了
- ・医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
- ・緩和ケア研修会修了
- 専門・研究分野
-
- ・循環器内科一般
- ・不整脈
- ・カテーテルアブレーション
- ・冠動脈インターベンション
梅津 隆太うめづ りゅうた
- 出身大学
- 長崎大学
- 卒業年
- 2007年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 学位(取得大学)
- 医学博士(九州大学)
- 専門医等の資格
-
- ・日本内科学会認定内科医
- ・日本内科学会総合内科専門医
- ・日本心血管インターベンション治療学会認定医
- ・医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
- ・緩和ケア研修会修了
三小田 周弘さんこだ ちかひろ
- 出身大学
- 九州大学
- 卒業年
- 2007年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 専門医等の資格
-
- ・難病指定医
- ・医師の臨床研修に係る指導医講習会修了
- ・緩和ケア研修会修了
- 専門・研究分野
-
- ・循環器一般
小嶋 浩士こじま ひろし
- 出身大学
- 九州大学
- 卒業年
- 2009年
- 専門医等の資格
-
- ・日本循環器学会循環器専門医
- ・日本内科学会総合内科専門医
- ・緩和ケア研修会修了
阿部 巧あべ こう
- 出身大学
- 九州大学
- 卒業年
- 2014年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
- 専門医等の資格
-
- ・日本循環器学会循環器専門医
- ・日本内科学会認定内科医
- ・緩和ケア研修会修了
野中 崇久のなか たかひさ
- 出身大学
- 久留米大学
- 卒業年
- 2016年
古川 雄三ふるかわ ゆうぞう
- 出身大学
- 岡山大学
- 卒業年
- 2022年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学
中島 諒なかしま さとる
- 出身大学
- 九州大学
- 卒業年
- 2022年
- 所属医局
- 九州大学循環器内科学