ロボット手術への取り組み
ロボットによる胃がん手術
胃がんは欧米よりもアジアに多い病気で、アジアンディジーズ(アジアの病気)ともいわれています。中でも日本は胃がん患者が多く、その治療において長い歴史があります。
胃がんに対する術式は、日本で発達してきたといっても過言ではなく、開腹手術では世界をリードする成績を示してきました。さらに腹腔鏡手術の技術も発達し、早期胃がんと一部の進行胃がんでは、開腹手術と同様の成績を、低侵襲(体に負担の少ない)の術式で得られることを証明してきました。
日本での胃がんに対するロボット手術の臨床試験は、2014年に始まりました。腹腔鏡手術のエキスパートである外科医たちがロボット手術で胃がんを治療した結果、その有効性や安全性が証明され、18年4月から保険適用になることが決定しました。
今後、ロボット手術による胃切除術は、胃がん手術の主要な術式の一つになると期待されています。
開腹手術・腹腔鏡下手術とロボット手術との違い
▽開腹手術との違い
開腹手術とロボット手術の違いは、創(手術の切開創)の大きさと術野(手術部位の視野)です。
開腹手術ではみぞおちから臍の横まで、縦に大きく切開(開腹)します。一方ロボット手術では、腹部に約10mmの小さな穴を5カ所あけ、カメラや鉗子を挿入して手術をおこないます。ロボット手術は創が小さい分、体にも負担が少なく、創の治りも早くなります。
また、カメラを手術部位のすぐそばまで近づけることができるため、実際目で見るよりも拡大された画像を確認しながら手術をおこなうことができます。細かな血管や構造物などをより認識しやすくなり、手術の精度を上げることができます。
▽腹腔鏡下手術との違い
腹腔鏡下手術は、腹部に4~5カ所の小さな穴をあけて、カメラや鉗子を挿入して手術をおこなうという点では、ロボット手術との違いはほとんどありません。両者の大きな違いは、視野と操作性にあります。
腹腔鏡下手術で使用されるカメラは2次元で、術野を平面的にとらえることしかできません。
ロボット手術で使用されるカメラには、高解像度3Dハイビジョンシステムが搭載されており、術者はリアルで立体的な映像を見ながら手術操作を直感的におこなうことができます。
操作性の点では、従来の腹腔鏡下手術は、小さな穴から細長い鉗子(手の代わりのもの)を、腹部にいれて操作して手術をおこないますが、鉗子の先端が自由には動かず、また人の手で操作するため、細やかな動作で震えが鉗子に伝わるなど、手術の難易度は開腹手術よりも高いといわれています。対してロボット手術で使われる鉗子は「多関節鉗子」といって、人間の手関節以上の可動域があり、さらに手元の震えが鉗子に伝わらないよう手ぶれ防止機能も搭載されています。これにより、従来の腹腔鏡下手術以上に繊細な操作が可能となります。
次の動画は、2つの鉗子の動きを比較したものです。前述の通り、腹腔鏡下手術用の鉗子(動画左)に比べてロボット手術用の鉗子(動画右)の方が、ブレがなく安定しており、先端が複雑に動かせることが分かります。
このように腹腔鏡下手術に比べて、より精密かつ正確な手術ができることがロボット手術のメリットです。これにより、合併症のリスクが軽減されたという報告もあります。
入院から退院までの流れ
ロボット手術の適応範囲、術式、費用
臨床病期(がんの進行度、ステージ)Ⅰ~Ⅱの早期胃がん、もしくは初期の進行胃がんが、ロボット手術の適応となります。術式は①胃切除術、②噴門胃切除術、③胃全摘出術があり、がんの位置や進行度により、どの術式を選択するかが決まります。
現在、ロボットによる胃がん手術は全額自己負担ですが、2018年4月の診療報酬改定で保険適用されることが決まりました。